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茨木市における障害者就労支援の取り組み
「スマイルオフィス」

中村 信彦 茨木市議会議員

障害者権利条約の批准

 障害者施策の関連法がこの間大きく変わってきています。こうした障害者施策をめぐる大きな流れを時系列でみると次のようになります。

 まず国連で障害者権利条約が2008年に発効して、日本政府もこの条約の批准に向けて、国内法の整備を進めました。2011年の7月に障害者基本法を改正し、2012年6月には障害者自立支援法を障害者総合支援法に改正、また、障害者優先調達推進法も公布しました。そして、障害者総合支援法も障害者優先調達推進法も、2013年の4月から施行されています。さらに、2013年の6月には障害者差別解消法が公布されました。この障害者差別解消法の施行は2016年の4月からということですが、こうした一連の障害者関係の国内法の整備を行った上で、政府は昨年の12月に、我が国が障害者権利条約を批准するための国会承認を取りつけ、2014年1月に国連に申請し2月19日からこの障害者権利条約の効力が日本でも生じることになりました。

 批准した条約は憲法に次ぐもので一般の法律よりも上位に位置づけられます。日本はこの条約を批准するために必要な国内法の整備を進めてきたものであり、障害者関連法の規定もさることながら、障害者権利条約でうたわれている精神や内容を広く国民に啓発しノーマライゼーションの社会を目指していかなければなりません。とりわけ行政や障害福祉に携わる者は、条約でいう障害者への「合理的配慮」とこれまでの「医療モデル」から「社会モデル」への転換の流れを十分認識し、今後の障害者施策に取り組んでいくことが求められています。そして行政的には国・府・市町村の中で障害者の暮らしに最も身近な基礎自治体が障害者施策推進の主体であるという認識にたって、各自治体が障害者施策の推進を図っていかなければなりません。

 茨木市は2014年3月の市議会本会議で次のように答弁しています。

 「(健康福祉部理事)障害者施策の主体はということでのご質問でございますが、障害者権利条約では、障害者のあらゆる人権及び基本的自由の平等と尊厳の尊重を促進することを目的としております。この条約において、認められている人権の実現のため、全ての適当な政策及び計画において、障害者の人権の保護及び促進を考慮に入れることとうたわれております。本市におきましても、この条約の理念にのっとり、障害者の生活に最も身近な基礎自治体であるという認識のもとに、障害者施策を推進してまいります」。

 こうした視点にたって平成27年度からの新しい障害福祉計画の策定作業が現在進められています。

 茨木市では、こうした一連の障害者関連法改正の前から「行政の福祉化」を庁内的に取り組んできました。

「行政の福祉化」

  「行政の福祉化」に取り組んだきっかけは、地方自治法施行令が2001年2月に改正され、従来は、価格競争型の入札が主流だったのが、総合評価入札も可能となったことでした。そもそも「行政の福祉化」とは、市役所の様々な業務の中で工夫をすることにより障害者や就労困難者の就労や自立支援等に繋げようという取り組みです。

 茨木市ではこの地方自治法の改正を受け、2008年度から総合建物等管理業務委託において、「価格評価」だけでなく、「技術力」や、「福祉への配慮」、「雇用に対する取り組み」、「環境への配慮」、「社会・文化貢献」、「災害時の業務体制」など、本市の施策を反映する「公共性(施策反映)」を併せて評価し、総合点数が最も高い企業を落札者とする総合評価一般競争入札を導入し、障害者や就職困難者の雇用、労働環境の整備、環境や男女共同参画への取り組みを推進することを目的として実施しています。

 この総合評価競争一般入札の実施に向けて、茨木市は2008年に「行政の福祉化」実施要領を作成しました。そして、総合建物管理業務に係る総合評価一般競争入札連絡検討会設置要綱の作成の際、その第7(行政の福祉化推進会議との連携)に「連絡検討会は、行政の福祉化に関連する評価項目等の検討事項について、行政の福祉化推進会議と連絡を密にし、相互に連携して行うものとする」と明記しました。

茨木市庁内職場実習事業

 その他にも「行政の福祉化」の一環として、2010年1月から茨木市庁内職場実習事業が始まりました。その目的は、障害者に市役所および市の施設内の職場における実習の機会を提供することにより、障害者の就労に対する意欲を高め、もって障害者の自立および社会参加並びに一般就労への移行を促進するとともに、公務労働における障害者の職域の開発に寄与することを目的とするとしています。例えば市の施設においても、いろんな事業者に職場実習をお願いしていますが、今度は市役所の庁内において、障害者の方に職場体験をしていただく事業を立ち上げたのです。

 まずはじめに、障害福祉課から市役所の各課に対して、障害をお持ちの方を受け入れてできるような仕事があるかを照会しました。そして各課のほうから、こういう仕事があります、こういうことができますよということの回答を集約し、それで茨木市と茨木摂津障害者就業生活支援センターとが協力して、就業生活支援センターから推薦を受ける形で実習生を決定したわけです。

 最初の年は、1月から3月の期間で実施するということで3月末までに23人の実習生が職場実習を受けました。延べ実習期間は140日間になりました。最初は市内事業所からの受け入れで実施しましたが、その時申し込みがあった事業所は6カ所でした。そして庁内で受け入れた課は9カ所でした。

 具体的には、こども政策課ではパンフレットの折り込み作業、福祉政策課では郵便物の仕分け作業、障害福祉課と高齢福祉課では、タクシーチケットの更新申請の書類等を郵送するためのインデックス貼りや封入作業。人権推進課では自殺予防の街頭キャンペーンのグッズづくりの作業、建設指導課では情報管理システムの入力作業、道路交通課では交通安全教室、保育所や幼稚園で交通安全教室が開かれるときに、受けられた方に渡すメダルをつくる作業。文化財資料館では、市内にあるたくさん遺跡から発掘された土器の洗浄作業。沢良宜いのち・愛・ゆめセンターでは清掃業務などです。この取り組みを通じて障害福祉課だけではなく、受け入れた各課でも障害者の就労支援に対する職員の意識が大きく変わってきました。

 そしてこの事業は2010年度以降も引き続き実施されています。2012年度は20の事業所から71人の実習生を受け入れ、19課2機関で延べ327日間にわたる実習を行い、その実習生のうち4人が一般就労につながりました

スマイルオフィス

 2013年度からは、これまでの庁内職場実習の取り組みの実績を踏まえスマイルオフィスが新たに本庁南館1階に開設されました。

 その内容は、市が3人の障害者を直接6カ月間雇用し、短期間ではありますが、就労支援を行うというものです。昨年4月の開設から最初の上半期の雇用を受けた3人のうち1人が一般就労、残りの2人は就労継続支援B型事業所において引き続き一般就労に向けた取り組みを行っています。

 今後、市としてこの取り組みをさらに推進して企業への障害者雇用の促進を図るため、就労訓練として実践力を身につける企業実習の取り組みも検討しています。そのための受け入れ企業との関係づくりや就労を支援する関係機関との連携強化が今後の大きな課題です。

 また2014年度から就労支援担当職員を障害福祉課に配置して、障害者の一般就労に向けたモデル事業を実施しています。具体的には、就労およびそれに伴う日常生活上の支援を必要とする障害者に対して窓口での相談、職場や家庭訪問による指導・助言を行うとともに、ハローワークや就業・生活支援センター等の関係機関との連携を図るというものです。特に、障害者を受け入れる民間企業への啓発や関係性の強化を図り、障害者の雇用促進に向けて、その支援策を構築することが求められています。

 以上、茨木市における障害者就労支援の取り組み報告といたします。

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